「学校」がおもしろくない
皆さんは子どものころ、学校が好きだっただろうか?今の日本では、中学生の38人に1人、小学生の279人に1人が不登校。特定非営利活動法人21世紀教育研究所事務局長の竹内延彦さんは、「学校が楽しいという子どもは、全体の半数以下じゃないでしょうか。おもしろくない、行きたくない、という子どもたちは、とても多くなってきています。」と言う。21世紀教育研究所は、現代教育問題の調査/研究機関。学校以外の選択肢を求める子どもやその親からの相談も受け付けている。
「不登校」とか「登校拒否」はまだまだネガティブなイメージとともに受け取られがちだが、最近になってやっと、「自分は不登校をしていた」と口に出して言える風潮になってきたのでは、と竹内さんは言う。実際、学校に行かなくてもいきいきと自分の人生を切り開いてゆく子どもたちも確実に増えてきているし、「学校に行けない」というよりも「学校に行かないことを選んだ」子どもたちもいる。これまでの「学校教育」に違和感をおぼえる、そういった子どもたちを受け止めてきたのは、多くがフリースクールやサポート校、ホームスクールやフリースペースといった市民グループやNPOだ。ほとんどが不登校の子どもやその親などの当事者が中心となって、「草の根」的にはじまり、広がってきた。
NPOが子どもたちの受け皿。
その代表ともいえるのが、約200人の子どもたちが通う「特定非営利活動法人東京シューレ」(代表:奥地圭子さん)。小学校の教師をしていた奥地さんが1985年、自分の子どもの不登校をきっかけに「親の会」をはじめたことから、行く場所がない子どもたちのために居場所が必要になり、子どもたちといっしょに創りあげていくうちに「フリースクール」というカタチになった。お仕着せの教育になじめなくて学校をやめた子だっている、だったら子どもたちが自分でカリキュラムを作ってしまえばいい。だから「不登校の子どもを治して学校に戻す」という発想ではなく、子どもの意思を尊重し、さまざまな活動を子どもたちといっしょに創っていくことを大原則にしている。
東京シューレのような大きなフリースクールでなくとも、地元密着のフリースクールや「居場所」は、昔とは比べようもないくらい増えている。いろいろなカタチで不登校の子どもたちの居場所となり、子どもたちの「何かを学びたい・やりたい」という気持ちを大切にできる「学びの場」。学校というただひとつの選択肢しかない息苦しさから子どもたちを救い、勇気づけ、ひとりひとりが自分らしく生きていくための支えとなってきた。
新しいタイプの学校、チャータースクール
そんな中、これまでの教育を大きく変えてしまうような新しい「しくみ」を提案するNPOが、ひそかに注目を浴びている。子どもたちの個性は千差万別。今の教育が合う子もいれば合わない子もいる。子どもたちが学校を選べるように、いろいろなタイプの学校があってもいいのではないか。そんな想いから、新しいタイプの公立学校、「チャータースクール」の実現を目指すNPOだ。
チャータースクールとは、アメリカで90年代に生まれて急激に普及した「市民が創る」公立学校。チャーターとは、学校開設の特別許可のことだ。チャータースクールは、一般市民がこの特別許可を受けて開設する「手作りの公立学校」で、入学者数に応じて国や自治体からお金が出る。ただし、学校開設時に示したプラン通りの教育成果をあげないと、学校を継続することができないことになっている。結果に責任を持たねばならないというわけだ。
チャータースクールのように、公教育において「教える自由」と「学ぶ自由」が保障されることの意味は、「違っているのは当たり前」という価値観が教育の現場でまだ根付いていない今の日本では、とても大きいのではないか。日本にはまだ1校もないが、全米では約2400校あるチャータースクールに約60万人が通う。(2001年データから。)芸術に重点を置いている学校や科学に特化している学校、あるいは自分でテーマを決めて調べる「調べ学習」を中心にしている学校、とそれぞれに特色がある。不登校やいじめ、暴力など、今の日本と同じような悩みを抱えていたアメリカだが、チャータースクールの出現によりそれらが改善されたというデータもある。
チャータースクールを日本にも創ろう
このチャータースクール方式を日本で唯一実践しているのが「湘南に新しい公立学校を創り出す会」(代表:佐々木洋平さん)だ。1999年から夏休みや春休みを利用して、試験的に開校してきたが、今年の4月からは毎週土曜日開校の「湘南小学校2002」を始める。来年の3月まで祝祭日の土曜日と8月を除く、本格的な一年間開校だ。2月に行われた一般向け入学説明会だけで40人の定員を超える入学応募があるなど、反響を呼んでいる。
代表の佐々木洋平さんは、現役の小学校の先生。佐々木さん自身、今の公立学校でできる「教え方」に限界を感じている教師の1人だ。例えば教室の机の上では算数や国語が身につかないが、自分で行く先を決めた日帰り旅行では漢字も算数も覚えられるという子どももいる。路線表の地名で漢字を覚え、電車のキップを買うことで計算を覚える。日帰り旅行には先生が同行して漢字や算数の学習は助けるが、その他のことには一切口出ししない。子どもの主体性を尊重するからだ。そういうひとりひとりに合った「学びの場」は、今の公立学校では実現不可能だ。
チャータースクールが認められれば、新しい学校を創りたいという情熱とアイデアを持つ教員や市民が、独自の理念と特色を持った学校を公費で創ることが可能になる。今までは私立学校でしか実現できなかったのが、公立学校でも可能になるということは、子どもたちにとっては「選択の余地」が増えるということになる。
しかし、チャータースクールをつくるということは法律を変えるということ。一筋縄ではいかないことは確かだ。その法制化もふくめて、チャータースクールを創ろうという動きは、徐々に、だが確実に広がりを見せている。「日本型チャータースクール推進センター」(代表:田中さつきさん)は、その法制化に焦点をあてて昨年9月に活動を開始。その他、各地でチャータースクールに関連するワークショップやシンポジウム、勉強会などが立て続けに開催され、現場の教師や親だけでなく、企業、ジャーナリスト、行政をも交え、盛り上がりを見せ始めている。
おわりに
実現までにはまだ時間がかかりそうな日本のチャータースクール。しかし、子どもたちの成長に「待った」はきかない。一刻も早く市民の手による公立学校が創られ、子どもたちが「学びの場」を自由に選べる社会になってほしい。「みんな違って、みんないい」。そんな社会になるために、チャータースクールを推進するNPOの今後の活躍に期待したい。
21世紀教育研究所
アメリカのチャータースクール運動の第一人者であるジョー・ネイサン氏を招いての講演会開催。(3月24日:東京、3月26日:長野)
湘南に新しい学校を創り出す会
日本型チャータースクール推進センター
アメリカで第1号のチャータースクールを開校したミネソタ・シティアカデミーのマイロ・カッター校長を招いてのシンポジウムを企画中。(5月5日:東京)
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