伝えたい!もうひとつの凍らない感動

ソルトレークでも活躍する日本のNPO
「壁」のない世界を目指して

パラリンピックって?

「Parallel(もうひとつの)+Olympic」という意味で、「パラリンピック」がオリンピックと同じ年に、同じ開催地で行われるようになったのは、1988年のソウル大会からだ。それまでは「国際身体障害者スポーツ大会」としてオリンピックとは異なる都市で開催され、注目度も低かった。1998年の長野パラリンピックで、日本選手が41個のメダルを獲得したことで、日本で障害者スポーツが注目を浴びはじめた。この盛り上がりをうけて誕生したのが、「日本パラリンピック委員会」(委員長:北郷勲夫さん)。パラリンピック大会への選手・役員の派遣、障害者スポーツ選手の競技力向上や、障害者スポーツに関する情報提供をまとめて行う機能を担うようになる。続いて開かれた、シドニー夏のパラリンピックでも、あわせて41個のメダルをとり、盛り上がりをみせたことは記憶に新しいだろう。そして、3月のソルトレーク。日本パラリンピック委員会は、41人の日本人選手の活躍をネットで速報し、パラリンピックの普及を図る。

どうして「もうひとつ」なの?

パラリンピックは障害者のオリンピック。しかし、どうして別々にオリンピックを開くの?身体的なハンディキャップはあっても、スポーツはスポーツなんだから、と素朴な疑問を投げかけているNPOがある。「国際障害者スポーツ写真連絡協議会(通称パラフォト)」(代表:佐々木延江さん)は、ソルトレークから情報発信をするもう一つのNPOである。8人のスタッフを現地に送り、ソルトレーク・パラリンピックの公式メディアとして取材をする。長野パラリンピックを機に、仲間が集まって活動を開始。2年前にはNPO法人化し、いまや、活動に株式会社ニコンやエプソン販売株式会社も協賛する。「4年前、たまたま仕事を通じて長野パラリンピックにかかわる機会があった。それまで障害者スポーツに関心があったわけでもないし、詳しかったわけでもない。でもすごく感動したんです!パラリンピックを取材して写真や記事で発信することで、自分がとても成長できる。学ぶものがものすごく多い。だからそのときに知り合ったプロのカメラマンや選手の江川善一さんを核に仲間を募って始めました。」グラフィックデザイナーである佐々木さんの仲間は、エンジニア、ライター、マスコミ志望の学生さんなどさまざま。障害者スポーツを撮って25年のプロカメラマン、清水一ニさんも仲間だ。

「かわいそう」から「カッコイイ」を目指して・・・

障害者は「弱いもの」と漠とした思いを持っていてもダメ。実際に、身近なところでもっと障害者のことを知ってほしい。そんな想いから、スポーツという誰でもわかるモチーフを、写真という媒体で、障害者のことを伝える。パラフォトは、障害者スポーツの普及を図る、というよりも、障害者スポーツと健常者スポーツの「壁」を取り払いたい、と考えている。今回ソルトレークで行われるオリンピックとパラリンピックは、初めて一つの実行委員会が運営することになった。ちょっとずつ枠はなくなりつつあるのか?

アマチュアカメラマンの山口一朗さんは、「撮るときはいつもふたつのテーマを持って撮っているつもりです。ひとつ目は、たくさんの方に見てもらえる写真を撮ること。ふたつ目は、プレーヤーの優しさを写したい。私を支えてくれるのはプレーヤーの優しさです。彼らの優しさとは、自分の弱さを知っている者だけが持てる優しさ、本当の強さです。苦境を乗り越え、事象を受け入れた者だけが持つ強さです。」

パラフォト代表の佐々木さんは言う。「パラリンピックを始めとする障害者スポーツには、放っているパワーがあります。感動の宝庫だし、まさに人間のドラマ。そういった意味では、健常者のスポーツとなんら変わりがない。」障害というのは単なる特徴でしかない。だから「障害者スポーツ」を撮って取材しているつもりはない。ひとつのスポーツ競技に魅せられ、選手を追っているだけだ。

目指せ「スポーツ面」!

もう一つの「どうして?」は新聞にも見つけることができる。お気づきだろうか?スポーツ情報は通常スポーツ面で報道される。ところが、障害者のスポーツは「社会面」での取り扱いが多い。徐々に、障害者スポーツもスポーツとして報道されるようになったが、それもごく最近の傾向だ。パラフォトでは、昨年、自分たちが撮った写真50点と競技で使用される道具を展示したパラフォト展を開催し、反響を呼んだ。3月には、2回目のパラフォト展と同時に、インターネットによるパラリンピック中継を行う予定だ。選手の成長や今後への期待感にあふれる名場面と、改めて歓喜を呼び起こすさまざまなシーンを届け、スポーツとしてのパラリンピックを紹介する。

おわりに

まだ日本でスポーツとして認知され始めてまもないパラリンピック。けれども、昨年から「もうひとつの国体」と呼ばれる全国障害者スポーツ大会が開催されるようになったり、ネットで国内外の障害者スポーツ大会の結果を広報するサイトが登場したり、と障害者スポーツを普及する動きは広がってきている。障害者スポーツも「けっこう面白いな」。そう思う人が増えることもパラフォトの願いだ。そして障害者スポーツが特別なものでなくなったときに、パラフォトは役目を終えるのかもしれない。


日本パラリンピック委員会(財団法人日本障害者スポーツ協会)

パラフォト

2002年ソルトレーク・パラリンピック冬季競技大会の概要
2002年3月7日から16日まで
実施競技:アルペンスキー、ノルディック(クロスカントリースキー、バイアスロン)、アイススレッジホッケーの3種目
参加規模:31カ国580人(うち、日本選手団は選手41人)
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アルペンスキー

撮影:清水一ニ

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長野・滑降競技の金メダリスト大日方選手を取材する清水一ニさん

撮影:多田さやか

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ソルトレークで注目を集める若手レーサー 丸山選手

撮影:多田さやか

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伴走者と一緒にゴールを駆け抜ける視力障害者

撮影:山口昌彦


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